トークン化とは:債券・ファンド・不動産がオンチェーンに移る仕組み
ファンドや債券、建物をブロックチェーンに載せるとはどういうことか。金融機関が取り組む理由、ブラックロックのBUIDLなどの実例、そしてリスクを解説します。

このページの内容
トークン化とは、ファンドの持分や国債、建物の一部といった普通の資産の所有権を、ブロックチェーン上のトークンとして記録することです。もはや実験段階だけの話ではありません。データサイトRWA.xyzによると、2026年9月29日時点で、トークン化された米国債関連の商品だけでも残高は約147億ドルに上ります。
この記事では、トークン化資産とは実際に何なのか、金融機関がなぜ取り組むのか、自分で確かめられる実例、そして弱点がどこにあるのかを説明します。
要点
- トークン化資産とは、チェーンの外にあるものへの権利をブロックチェーン上に記録したものです。トークンの価値は、それを支える法的な仕組みの確かさで決まります。
- 金融機関が求めているのは、決済の迅速化、小口化、24時間の移転、処理の自動化です。
- 現時点で最大の用途は、ブラックロックのBUIDLやフランクリン・テンプルトンのBENJIのような、トークン化されたMMF・米国債ファンドです。各国政府はデジタル債を発行し、ドバイは不動産のトークン化を試験しています。
- 主なリスクは、法的な強制力、カストディ(資産の保管)、流動性、そして外部データをチェーンに届けるオラクルです。
- 中央銀行は決済の側を整えつつあります。プロジェクト・アゴラは2026年7月に実資金での支払いを行い、ユーロシステムのPontesは2026年9月21日に稼働しました。
資産をトークン化するとは
トークンとは、誰が何をどれだけ持っているかを記録したブロックチェーン上の記載です。ビットコインのような暗号資産では、トークンそのものが資産です。一方、実物資産(英語でreal-world asset、略してRWA)は事情が異なります。ファンドの持分や債券、建物はチェーンの外に存在し、トークンはそれに対する法的な権利を表します。
その権利が成り立つには、三つの条件がそろう必要があります。まず、裏付けとなる資産を誰かが保有し、安全に保管すること。多くの場合、規制を受けたカストディ銀行です。次に、誰かが公式の所有者名簿を管理すること。トークン化では、この名簿の全部または一部がブロックチェーン上に置かれます。そして、その名簿を法律が認め、裁判所がトークンの保有者を所有者として扱うことです。
- 資産はチェーンの外にある (ファンド、債券、権利証)
- カストディアンが保管する (多くは規制下の銀行)
- トークンを発行する (名簿がチェーン上へ)
- トークンが移転する (ウォレット間で、いつでも)
- 現金に償還する (トークンは消却される)
トークンのコードには、たいていルールも組み込まれています。たとえばファンドのトークンは、本人確認を済ませたウォレットにしか送れないことがあります。また、発行体や名義書換代理人(ファンドの持分名簿を管理する会社)は、鍵の紛失や裁判所の命令があれば、トークンを凍結したり再発行したりできるのが一般的です。
金融機関が取り組む理由
よく挙げられる利点は四つあります。
- 決済の迅速化。 決済とは、お金と資産が実際に受け渡される瞬間のことで、米国株は取引の1営業日後に決済されます。共有台帳の上なら、両者を数秒で一度に交換できます。これをアトミック決済と呼び、両方の受け渡しがそろって成立するか、どちらも成立しないかのどちらかになります。
- 小口の所有。 トークンは簡単に細かく分けられます。ドバイの不動産パイロットでは、2,000ディルハム(約545ドル)から物件の持分を販売していました。
- 24時間365日の移転。 ブラックロックによると、BUIDLのトークンは事前承認を受けた投資家の間で「24/7/365」移転できます。通常のファンド持分が動くのは営業日だけです。
- プログラムできること。 コードで収益を自動的に支払えます。BUIDLは日々発生する配当を毎月、新しいトークンで支払い、フランクリン・テンプルトンのファンドは、日々の利回りに応じて新たに発行したBENJIトークンを保有者のウォレットに届けます。

自分で確かめられる実例
ほとんどの資産はトークン化できますが、先行している分野はいくつかに絞られます。
マインドマップ:トークン化された実物資産
- ファンド
- MMF
- 米国債ファンド
- 債券
- 国債
- 開発銀行の債券
- 不動産
- 権利証
- 小口持分
- その他
- プライベートクレジット
- 株式・ETF
- コモディティ
- 約147億ドル: トークン化された米国債関連商品の残高
- 約100億香港ドル: 香港の3回目のデジタル債(2025年)
- 2,000ディルハム: ドバイ不動産パイロットの最小持分
トークン化ファンド
最大の分野は、短期の米国債で運用するファンドです。ブラックロックは2024年3月20日、USD Institutional Digital Liquidity Fund(BUIDL)をイーサリアム上で立ち上げました。名義書換代理人はSecuritize、カストディアンはBNYメロンです。運用対象は現金、米国短期国債、レポ取引で、1トークン=1ドルの安定した価値を目指します。投資できるのは適格投資家に限られ、最低投資額は500万ドルです。その後、ソラナやBNBチェーンなど他のチェーンにも広がりました。
先行したのはフランクリン・テンプルトンです。同社のFranklin OnChain U.S. Government Money Fund(ティッカーFOBXX、トークン名BENJI)は2021年4月にステラ上で始まり、公式の所有者記録をパブリック・ブロックチェーンに置く、米国で初めての登録MMFとなりました。BENJIは現在、九つのパブリック・チェーンで利用されています。2026年8月には米証券取引委員会(SEC)の職員が、同社の他のファンドがFOBXXの持分を保有し、オンチェーンの記録を管理する同社の名義書換代理人がカストディアンを務めても、執行措置を勧告しないとの見解を示しました。
出典:RWA.xyz(2026年9月29日時点)
| 億ドル | |
|---|---|
| Circle USYC | 24 |
| Ondo USDY | 22.8 |
| BlackRock BUIDL | 22.8 |
| Franklin iBENJI | 17.2 |
| WisdomTree WTGXX | 12.3 |
| Franklin BENJI | 6.7 |
トークン化債券
欧州投資銀行(EIB)は2021年4月、1億ユーロ・期間2年のデジタル債をイーサリアム上で発行しました。このとき、フランス銀行が払込金を中央銀行デジタル通貨としてチェーン上に表しました。2022年には、プライベート・ブロックチェーンを使ったユーロ建て債券「Project Venus」が続きました。
香港政府は、いまやデジタル債を定期的に発行しています。2025年11月に条件が決まった3回目の発行では、4通貨で約100億香港ドルを調達し、1,300億香港ドルを超える応募を集めました。二つのトランシェでは、トークン化された中央銀行マネーであるe-HKDとe-CNYでの決済も選べました。香港金融管理局(HKMA)によれば、これは世界初の試みです。
トークン化不動産
2025年5月、ドバイ土地局はPrypco Mintというプラットフォームで、地域初のトークン化不動産プロジェクトを始めました。トークンは権利証にひも付けられ、XRP Ledgerに記録されたうえで、公式の不動産登記と同期しています。パイロットはUAEの身分証を持つ人に限られ、支払いは暗号資産ではなくディルハムでした。2026年2月20日からは、流通市場での転売も始まっています。
パブリック型か、パーミッションド型か
イーサリアムやソラナ、ステラのようなパブリック・ブロックチェーンでは、誰でもノードを運営でき、すべての取引を見ることができます。パーミッションド型のブロックチェーンは、承認された機関だけが参加します。発行体は両者を組み合わせることも多く、ファンドがパブリック・チェーン上にありながら、トークンは審査済みのウォレット間でしか動かない、という形もあります。
| パブリック型 | パーミッションド型 | |
|---|---|---|
| 検証する主体 | 誰でも | 承認された機関 |
| 取引が見える範囲 | 全員 | 参加者のみ、多くはプライバシー保護つき |
| 例 | BUIDL、BENJI | DTCCのBesuネットワーク、EIBのProject Venus |
| 長所と短所 | 広く届くがデータは公開 | 管理しやすいがつながりが少ない |
両者の境目はあいまいになりつつあります。米国の中心的な証券保管機関を運営するDTCCは、2026年7月15日にトークン化証券を実際の取引で使いましたが、その舞台は自社のプライベートなBesuネットワークと、同社がパブリックと位置づけるCanton Networkの両方でした。参加企業は30社を超え、DTCCはこのサービスを2026年10月に開始する予定です。
法的な器:トークンを権利にするもの
コードだけでは、米国短期国債やマンションの所有者にはなれません。それを可能にするのは法的な器、つまりオンチェーンの記録が有効だと定めるファンドの書類、証券規制、財産法です。
これを法律に書き込んだ国もあります。スイスは2021年2月に「台帳ベースの証券」を導入し、ドイツでは2021年6月の電子有価証券法により、監督下のブロックチェーン名簿に記録する暗号有価証券が認められました。英国でも2025年12月、デジタル資産が個人の財産になりうることを確認する法律が成立しました(対象はイングランド、ウェールズ、北アイルランド)。
米国では2026年1月、SECの職員が、保有者をチェーン上で記録してもチェーン外で記録しても、連邦証券法の適用は変わらないとの声明を出しました。声明は、発行体自身またはその委託で発行されたトークンと、第三者が作るトークンを区別しています。後者には、第三者が保管する証券を表す「カストディ型」と、価格に連動するだけで発行体への権利を持たない「合成型」があります。
トークン化資産を信頼する前に、誰がトークンを発行したのか、法的に有効な名簿はどれか、プラットフォームやカストディアンが破綻したら何を請求できるのかを確かめましょう。合成型のトークンは、所有権を一切与えずに価格だけを追う場合があります。
リスク
| リスク | 起こりうること | 一般的な備え |
|---|---|---|
| 法的な強制力 | 裁判所がトークンを所有権と認めない | オンチェーン名簿を認める法律 |
| カストディ | 鍵の紛失・盗難、保管者の破綻 | 規制下のカストディアン、凍結と再発行 |
| 流動性 | トークンは24時間動くが、買い手がいるとは限らない | 明確な償還条件、流通市場 |
| オラクル | ファンドのNAVなど、チェーン上の値の誤り | 独立したデータフィードと点検 |
世界の証券規制当局でつくる証券監督者国際機構(IOSCO)は2025年11月、トークン化取引の大多数はこれまで実験やパイロットの一環だったと指摘しました。あわせて、権利や所有関係の不明確さ、サイバー攻撃、高いコストにも警鐘を鳴らしています。流動性にも時間がかかります。ドバイのパイロットでは、転売市場ができるまで9か月かかりました。
オラクルとは、価格やファンドの純資産価値(NAV)といった外部のデータをブロックチェーンに届ける仕組みです。担保に差し入れられたトークン化ファンドの安全性は、チェーン上の価値が正しいかどうかにかかっています。そのため、Chainlinkなどのオラクル・ネットワークは、準備資産やNAVのフィードも提供しています。詳しくはオラクル:ブロックチェーンはどうやって価格を知るのかで解説しています。
規制当局とBISの見解
規制当局の見方は一致しています。トークン化で変わるのは技術であり、ルールではありません。残る問題は、取引をどのお金で決済するかです。
中央銀行の銀行とも呼ばれる国際決済銀行(BIS)は、2023年に「統合台帳(unified ledger)」を提唱しました。トークン化された中央銀行マネー、銀行預金、資産を一つのプログラム可能な基盤に並べ、取引とその支払いを一度に決済するという構想です。2026年の年次経済報告もこの考えを引き継ぎ、相互運用可能なネットワークの集合として実現する道も示したうえで、現在のステーブルコインは信頼できるお金の条件を満たしていないと論じています。
プロジェクト・アゴラは、この構想を国境をまたぐ支払いで試すものです。BISは2024年4月、イングランド銀行、ニューヨーク連邦準備銀行、ユーロシステムを代表するフランス銀行、そして日本、韓国、メキシコ、スイスの中央銀行の計7行とともに始めました。その後カナダ銀行も加わり、40を超える金融機関が参加しています。2026年7月には28の機関が試作システム上で総額約80万スイスフランの実際の支払いを行い、指図から決済までの時間は平均約80秒でした。
- : EIBがイーサリアムでデジタル債を発行
- : EUのDLTパイロット制度が適用開始
- : BISが統合台帳を提唱
- : ブラックロックがBUIDLを開始
- : BISと7中銀がプロジェクト・アゴラを開始
- : 香港のデジタル債、e-HKDとe-CNYで決済可能に
- : SEC職員がDTCのトークン化パイロットを容認
- : プロジェクト・アゴラが報告書を公表
- : アゴラが実資金で試験、DTCのトークンが実取引に
- : ユーロシステムがPontesを開始
欧州では、Pontesによって、トークン化資産の大口取引をユーロシステムのTARGETサービスを通じて中央銀行マネーで決済できるようになりました。より長期の取り組みであるAppiaは、2028年までに青写真をまとめることを目指しています。
よくある質問
個人でもトークン化された米国債ファンドを買えますか?
多くの場合、買えません。BUIDLは最低500万ドルの適格投資家向けで、CircleのUSYCは米国外の人に限られ、最低10万ドルからです。米国で登録されたフランクリン・テンプルトンのファンドでは、保有者がすべての取引をBenjiアプリで行います。条件は商品や国によって異なるため、募集書類で確認してください。
トークン化された債券は、普通の債券より危険ですか?
信用リスクは同じです。発行体が支払えるかどうかに頼る点は変わりません。トークン化によって加わるのは、スマートコントラクトの不具合、鍵の管理、法的に有効な名簿はどれか、売りやすさといった、運用面と法律面の論点です。
ブロックチェーンが止まったらどうなりますか?
権利が消えるわけではありませんが、ネットワークが回復するまで移転は止まります。発行体や名義書換代理人は独自の記録を持っており、通常はトークンの凍結や再発行ができます。
ステーブルコインはトークン化資産ですか?
ある意味ではそうです。法定通貨担保型のステーブルコインは、チェーン外の現金や短期国債に裏付けられたトークンですが、投資商品ではなくお金として使われます。CircleのUSYCのように、申し込みと償還をステーブルコインのUSDCで行うトークン化ファンドもあります。
出典
- BlackRock: BlackRock Launches Its First Tokenized Fund, BUIDL, on the Ethereum Network
- Franklin Templeton: Invest with Benji
- SEC: Franklin Templeton, staff no-action letter
- SEC: Statement on Tokenized Securities
- RWA.xyz: Tokenized U.S. Treasury Funds
- Circle: USYC
- 欧州投資銀行: EIB issues its first ever digital bond on a public blockchain
- 香港金融管理局: HKSAR Government's Third Digital Green Bonds Offering
- ドバイ土地局: DLD launches the MENA's first tokenized real estate project
- DTCC: DTCC Turns Tokenization into Reality
- IOSCO: Tokenization of Financial Assets, Final Report
- BIS: Blueprint for the future monetary system
- BIS: Anchoring trust in money: innovation beyond stablecoins
- BIS: Project Agorá
- 欧州中央銀行: Eurosystem brings central bank money to tokenised finance


