カストディアル型か自己管理型か:ウォレットの選び方と安全対策
カストディアル型と自己管理型のウォレットの違い、それぞれに求められること、FTX破綻の教訓、そしてどちらを選んでも資産を守れる習慣を解説します。

このページの内容
どの暗号資産ウォレットも、一つの問いに答えています。コインを動かせる「秘密鍵」を誰が持っているのか、という問いです。カストディアル型のサービスでは、事業者があなたの代わりに鍵を預かります。自己管理型(セルフカストディ)では、あなた自身が鍵を持ちます。多くの場合、紙に書いたシードフレーズや小型のハードウェア機器という形です。
このガイドでは、二つの方式の違いとそれぞれに求められること、2022年11月にFTXが破綻したとき何が起きたのか、そしてどちらを選んでもコインを守れる日々の習慣を解説します。内容は2026年9月29日時点の情報に基づいています。
この記事のポイント
- カストディアル型は事業者が鍵を預かるため便利で、多くの場合アクセスを回復できます。ただし、事業者が誠実で安全かつ支払い能力を保ち続けることが前提です。
- 自己管理型なら事業者のリスクはなくなりますが、シードフレーズを失ったり誤ったアドレスに送ったりしたコインは、誰にも取り戻せません。
- FTXはカストディのリスクが最悪の形で表れた例です。顧客の資金が流用され、出金が止まり、返済には何年もかかったうえ、2022年11月時点の価格でドル建てで支払われました。
- どちらの方式でも、大半の防御は同じ習慣が担います。SMSではなく認証アプリ、使い回さないパスワード、アドレスとネットワークの入念な確認、テスト送金、そしてアドレス帳です。
暗号資産を持つ二つの方法
コインはウォレットアプリの中に入っているわけではありません。ブロックチェーン上に記録されており、対応する秘密鍵を管理する人がそれを動かせます。秘密鍵とは長い秘密の数値のことです。多くのウォレットでは、これをシードフレーズ(リカバリーフレーズ)としてバックアップできます。通常は12語か24語の単語の並びで、対応するウォレットならどれでも鍵を復元できます。
カストディアル型のウォレット、たとえば取引所の口座では、事業者が鍵を管理します。あなたの残高は事業者の帳簿上の記録であり、ネットバンキングと同じようにログインして利用します。自己管理型(ノンカストディアル)のウォレットでは、鍵はあなた自身のスマートフォンやパソコン、ハードウェア機器の中で作られ、ほかの誰もコピーを持っていません。
透明性のためにお伝えします。このブログを運営するnowcoinは、カストディアル型のウォレットです。お客様の残高を裏付けるウォレットの鍵は当社が保有しており、お客様ご自身は保有していません。このガイドは、どちらを選ぶ場合でも納得して選べるようにするためのものです。

それぞれの長所と短所
| カストディアル型 | 自己管理型 | |
|---|---|---|
| 手軽さ | どこからでもログインでき、売買や交換も簡単 | アプリや機器、バックアップを自分で管理 |
| アクセスを失ったら | 本人確認のうえで口座を回復できることが多い | シードフレーズがなければ手段なし |
| 責任 | 主に事業者のセキュリティ | すべて自分 |
| カウンターパーティーリスク | 事業者の破綻、凍結、資金の不正使用がありうる | 間に入る事業者がいない |
どちらか一方が単純に安全というわけではありません。カストディアル型では、リスクの中心があなた自身のミスから事業者の行動へと移ります。自己管理型では事業者がいなくなる代わりに、あらゆるミスが取り返しのつかないものになります。ブロックチェーン上の送金は取り消せず、失ったシードフレーズを作り直せる窓口もありません。
紙一枚をなくすことと、事業者があなたのお金を失うこと、どちらがより心配かを考えてみるとよいでしょう。両方を使い分けることもできます。たとえば、日常的に動かす残高はカストディアル型に、長期で持つ分は自己管理型に置く方法です。
カストディ事業者が破綻するとき:FTXとCelsius
FTXは世界最大級の暗号資産取引所でした。のちに事件を審理した控訴裁判所によると、2022年には顧客の取引額が1日あたり約100億〜150億ドルに達していました。その崩壊にかかったのは2週間足らずです。
- : CoinDeskがFTXの姉妹会社アラメダの財務内容を報道
- : バイナンスがFTX独自のトークンFTTの売却を表明し、出金が急増
- : FTXが顧客の出金をすべて停止
- : FTXが破産を申請し、サム・バンクマン=フリードが辞任
- : 陪審がバンクマン=フリードに七つの罪状すべてで有罪評決
- : 禁錮25年の判決
- : 債権者への最初の返済が始まる
- : 控訴裁判所が有罪判決を支持
裁判で示された証拠によると、FTXの創業者バンクマン=フリードは顧客に「資金は安全だ」と伝えながら、数十億ドルを顧客口座から自身のトレーディング会社アラメダ・リサーチへ移していました。その資金は、顧客の預かり金とは無関係の投資やアラメダの損失の穴埋め、政治献金、不動産などに使われました。2022年11月7日には「FTX is fine. Assets are fine(FTXは大丈夫、資産も問題ない)」と投稿しましたが、米証券取引委員会(SEC)はのちにこの投稿を虚偽かつ誤解を招くものだと指摘しています。その翌日、出金は止まりました。
2026年9月、バンクマン=フリードは米連邦最高裁判所に上告審の受理を申し立てました。本稿執筆時点で、最高裁は受理するかどうかをまだ決めていません。
顧客は資金が戻るまで2年以上待たされました。2026年7月までに、主要な顧客クラスへの支払いは確定債権額の105%に達しています。しかし米国の破産法のもとで、これらの債権は2022年11月時点の価格によりドル建てで評価されました。顧客が受け取ったのはコインではなく現金であり、その後の価格上昇の恩恵は受けられませんでした。
FTXだけではない
暗号資産の貸付プラットフォームCelsiusは、2022年6月に出金を凍結し、翌月に破産を申請しました。2023年1月、裁判所はCelsius自身の利用規約に基づき、利息を受け取れる「Earn」口座に預けられたコインは同社の所有物になっていたと判断しました。影響を受けたのは約60万口座、約42億ドル分で、口座の持ち主はコインの所有者ではなく、破産手続き上の債権者となりました。
ここから得られる教訓は、すべてのカストディ事業者が詐欺を働くということではありません。カストディとは、事業者の誠実さや内部管理、法的な契約条件を信頼することであり、そのうち外部から確かめられるのは一部にすぎない、ということです。
カストディアル型を選ぶなら
慎重な事業者とリスクの高い事業者を見分けるには、次の点を確かめましょう。
- 住んでいる国で認可や登録を受けているか。 規制当局は登録業者の一覧を公表しています。EUでは暗号資産市場規則(MiCA)により、顧客の暗号資産を預かる認可事業者は、それを自社の資産とブロックチェーン上でも法的にも分けて管理しなければなりません。事業者が破綻しても、その債権者が顧客の資産に手を出せないようにするためです。最後の経過措置は2026年7月1日に終了しました。
- 利用規約に何が書かれているか。 コインが引き続きあなたのものか、事業者がそれを貸し出したり流用したりできるかを確認しましょう。Celsiusの顧客が所有権を失ったのは、まさに利息の付く商品でした。
- 「プルーフ・オブ・リザーブ(準備金の証明)」で何がわかるか。 これを公表する取引所もあります。米国の監査監督機関PCAOBは、こうした報告書は監査ではなく、ある一時点の資産を示すにすぎないと警告しています。それだけでは、顧客への債務をまかなうのに十分な資産があることの証明になりません。
- どんなセキュリティ機能があるか。 認証アプリやセキュリティキーでのログイン、出金用のアドレス帳、通知、ログイン中の端末一覧などがあるかを確認しましょう。
一つの事業者に預けるのは、そこで本当に必要な分だけにしておくのも有効です。
自分で鍵を管理するなら
自己管理はシードフレーズから始まります。紙や金属に書き留めてオフラインで人目につかない場所に保管し、ウェブサイトに入力したり、写真に撮ったり、メールやクラウドのメモに保存したりしてはいけません。それを見た人は、すべてを持ち去ることができます。フレーズを失い、さらに機器が壊れれば、コインは永久に戻りません。
本物のサポート窓口、ウォレットメーカー、取引所が、シードフレーズを尋ねることは決してありません。尋ねてくる相手は、あなたのコインを盗もうとしています。
ハードウェアウォレット
ハードウェアウォレットは、鍵をオフラインで生成・保管し、取引の署名を機器の内部で行う小型の端末です。そのため、パソコンに入り込んだマルウェアが鍵をコピーすることはできません。支払いは一件ずつ機器自体の画面で確認します。メーカーのTrezorはこの画面を「the source of truth(信頼すべき唯一の情報源)」と呼んでいます。購入はメーカーか正規販売店で新品を選びましょう。見知らぬ人の手を経た機器は、細工されているおそれがあります。
マルチシグとMPC
マルチシグ・ウォレットは、送金の承認に複数の鍵を必要とする仕組みで、「m-of-n」と表します。たとえば2-of-3のウォレットは、三つの鍵のうち二つが署名したときだけコインを動かせます。鍵を別々の場所に保管しておけば、一つを失っても困りません。
MPC(マルチパーティ計算)は、似た目的を別の方法で実現します。鍵を複数の断片に分けて異なる機器や当事者が持ち、決められた数の断片が協力して署名します。どの一者も鍵全体を持たない設計です。一部のカストディ事業者やウォレットアプリが採用していますが、断片を誰が持つかによって、本当に自己管理と言えるかが決まります。どちらの方式も安全性を高める一方で複雑さも増すため、自分や家族のために復元の手順を書き残しておきましょう。
どちらでも役立つ習慣
損失の多くは、巧妙なハッキングではなく、盗まれたログイン情報やすり替えられたアドレス、言葉巧みな他人によって生じます。次の習慣は、どちらのウォレットを使っていてもあなたを守ります。手口そのものについては、暗号資産の詐欺とフィッシングのガイドで詳しく説明しています。
安全にログインする
2段階認証には、SMSではなく認証アプリ、できればパスキーやセキュリティキーを使いましょう。米国のサイバーセキュリティ機関CISAは、SMSは暗号化されておらず、電話番号がSIMスワップで乗っ取られるおそれがあるとして、SMSによる認証コードを使わないよう勧めています。認証アプリが使えるようになったらSMSはオフにしましょう。また、アプリのコードもフィッシングで盗まれることがあるため、自分で開いたサイトにだけ入力してください。
アカウントごとに別々の長いパスワードを設定し、CISAの推奨どおり16文字以上にして、パスワードマネージャーに覚えさせましょう。あるサービスから漏れたパスワードは、攻撃者がほかのサービスでまず試すものです。
ときどきログイン中の端末一覧を確認し、心当たりのないものはログアウトさせてからパスワードを変更しましょう。自己管理型のウォレットでは、接続中のサイトを見直し、使わなくなったトークンの承認を取り消すことがこれに当たります。
安全に送金する
出金のたびに、コイン、ネットワーク、アドレスの三つを確認しましょう。USDTやUSDCのように、同じコインが複数のネットワークに存在することがあり、受取人が対応していないネットワークで送ると資金が届かないおそれがあります。詐欺師はよく似たアドレスを作るため、最初と最後の数文字だけでなく、アドレス全体を照合してください。
- アドレスを保存 (アドレス帳に登録)
- ネットワークを選ぶ (受取人が対応するもの)
- 少額でテスト送金 (失っても困らない額)
- 着金を確認 (受取人かエクスプローラーで)
- 残りを送金 (保存した同じアドレスへ)
アドレス帳を使えば、一度の入念な確認がずっと生きます。登録済みのアドレス以外への出金をブロックできるサービスもあり、新しいアドレスの登録に待機期間を設けている場合もあります。誰かにアカウントへ侵入されても、対応する時間が得られます。
2段階認証: 認証アプリ、パスキー、セキュリティキーを使い、SMSはオフ。 パスワード: 長く、使い回さず、パスワードマネージャーで管理。 アドレス: アドレス帳に登録し、全体を照合。 ネットワーク: 受取人が対応しているものを選ぶ。 初めての送金先: まず少額でテスト送金。 端末: ログイン中の一覧を確認し、見覚えのないセッションは終了。 シードフレーズ: オフラインで保管し、誰にも教えず、サイトに入力しない。
よくある質問
取引所に預けた暗号資産は、銀行預金のように保護されますか?
通常は保護されません。米国の連邦預金保険公社(FDIC)は、預金保険が暗号資産を対象とせず、暗号資産のカストディ事業者や取引所、ウォレット事業者の破綻からも守らないと明言しています。ルールは国によって異なるため、利用するサービスにどのような保護があるのか、そもそもあるのかを確認してください。
シードフレーズをなくしたらどうなりますか?
ウォレットがまだ使えるなら、すぐに新しいシードフレーズの新しいウォレットへコインを移しましょう。機器とフレーズの両方を失った場合、誰もアクセスを回復できません。カストディアル型の口座であれば、通常は本人確認を経て事業者を通じてアクセスを回復します。
ハードウェアウォレットがあれば詐欺から守られますか?
守られるのはマルウェアからの鍵であって、あなたの判断ではありません。悪意のある取引を機器で承認したり、偽サイトにシードフレーズを入力したりすれば、防ぎようがありません。承認する前に、機器の画面に表示された内容をよく読みましょう。
参考資料
- 米国第2巡回区控訴裁判所: United States v. Bankman-Fried, No. 24-961(2026年6月12日判決)
- 米証券取引委員会(SEC): SEC v. Samuel Bankman-Fried 訴状(2022年12月13日)
- 米司法省: Samuel Bankman-Fried Sentenced to 25 Years for His Orchestration of Multiple Fraudulent Schemes
- 米連邦最高裁判所: Docket No. 26-349, Bankman-Fried v. United States
- 米国デラウェア地区破産裁判所: デジタル資産建て債権の評価に関するFTX事件の決定
- FTX Recovery Trust: FTX Announces Fifth Distribution of Approximately $900 Million to Creditors on July 31, 2026
- FTX: FTX Announces Initial Distribution Date of February 18, 2025 for Convenience Class Creditors
- 米国ニューヨーク南部地区破産裁判所: Earn口座の資産の所有権に関するCelsius事件の決定
- EUR-Lex: Regulation (EU) 2023/1114 on markets in crypto-assets(MiCA)
- PCAOB: Investor Advisory: Exercise Caution With Third-Party Verification/Proof of Reserve Reports
- 米連邦預金保険公社(FDIC): What the Public Needs to Know About FDIC Deposit Insurance and Crypto Companies
- CISA: Mobile Communications Best Practice Guidance
- CISA: Use Strong Passwords
- Trezor: How to use a wallet backup
- Trezor: Common scams and phishing affecting Trezor users
- Trezor: Where to buy a genuine Trezor hardware wallet
- Bitcoin開発者向けドキュメント: Transactions
- 米国立標準技術研究所(NIST): Multi-Party Threshold Cryptography
- Kraken: Multiple networks and methods for deposits and withdrawals


