暗号資産の詐欺とフィッシングを見抜く:被害に遭う前に知っておきたいこと
被害額の大きい暗号資産詐欺の手口を、フィッシングや偽サポートからアドレスポイズニング、ドレイナーまで解説。危険信号と、被害に遭ったときの対処法もまとめました。

暗号資産の盗難の多くは、プログラムを破って行われるわけではありません。相手を言葉巧みに誘導し、自らドアを開けさせるのです。偽サイトにパスワードを入力させる、見知らぬ人のアドレスにコインを送らせる、中身を理解しないまま署名させる、といった具合です。暗号資産の送金は取り消せないため、行動する前に手口を見抜くことが最大の防御になります。
このガイドでは、よくある手口、それらに共通する危険信号、身を守る習慣、そして万一被害に遭ったときの対処法を紹介します。数値は、2026年9月29日時点で最新の米連邦捜査局(FBI)「2025年インターネット犯罪報告書」によるものです。
この記事のポイント
- FBIが2025年に受理した暗号資産関連の被害申告は18万1565件、報告された損失額は114億ドルに上り、そのうち暗号資産投資詐欺だけで72億ドルを占めました。
- ほぼすべての手口は、あなたの協力を必要とします。クリック、シードフレーズ、署名、送金のいずれかです。
- シードフレーズ、パスワード、ログイン用のコードは誰にも教えないでください。本物のサポートがそれらを尋ねることはありません。
- ウェブサイトのアドレスは自分で入力し、ウォレットアドレスは一文字ずつ確認し、署名する内容は必ず読みましょう。
- 被害に遭ったら、支払いをやめ、アカウントを保護し、取引IDを記録して、すぐに届け出てください。手数料と引き換えにお金を取り戻すと持ちかける相手は無視しましょう。
被害の規模
FBIのインターネット犯罪苦情センター(IC3)は、被害者からの申告を受け付けています。申告者の多くは米国在住です。2026年4月に公表された2025年の報告書からは、今日の詐欺のどれほどが暗号資産を介しているかがわかります。
- 114億ドル: 2025年にFBIへ報告された暗号資産関連の損失額
- 18万1565件: 暗号資産関連の申告件数(2024年比21%増)
- 72億ドル: 暗号資産投資詐欺による損失額
- 44億ドル: 60歳以上が報告した暗号資産関連の損失額
これらは被害者が申告した分だけの数値です。フィッシングとなりすまし(スプーフィング)は、あらゆる犯罪の中で最も多く申告され、19万1561件に上りました。FBIはまた、暗号資産投資詐欺の大半が東南アジアの組織犯罪グループによって行われ、人身取引の被害者が詐欺拠点で強制的に働かされている例も多いと指摘しています。
よくある手口
手口の呼び名はすぐに変わりますが、いくつかの系統に分けられます。
マインドマップ:暗号資産詐欺
- 偽のサイトとアプリ
- フィッシングのリンクと広告
- 偽物のウォレットアプリ
- 偽の人物
- サポート担当者
- ネットの友人や恋人
- 有名人や公的機関
- ウォレットを狙う罠
- アドレスポイズニング
- 悪意のある承認
- 偽のプロジェクト
- ラグプル
- パンプ・アンド・ダンプ
フィッシングサイトと偽アプリ
フィッシングサイトは本物の取引所やウォレットをそっくりまねて、パスワードやログイン用のコード、シードフレーズを盗み取ります。リンクはメールやSMS、SNSで届きます。犯罪者は検索広告も購入し、本物の検索結果より上に表示させます。FBIは、こうした広告が特に暗号資産取引所になりすましていると警告しています。偽アプリも同じ仕組みで、詐欺的な投資アプリは存在しない利益を表示します。
お金を扱うサイトは、アドレスを自分で入力するかブックマークから開きましょう。アプリは、提供元の公式サイトにあるリンクからだけインストールしてください。
偽のサポート担当者
サポートを装う詐欺師は、SNSやチャットのフォーラムで助けを求める人を探し、個別に連絡してきます。そしてシードフレーズやログイン用のコード、パソコンの遠隔操作を求めたり、資金を「安全な」ウォレットへ移すよう指示したりします。本物のサポートは、こうしたことを一切しません。FBIによると、暗号資産が絡む技術サポート・カスタマーサポート詐欺の被害額は、2025年に12億3000万ドルでした。
アドレスポイズニング
ウォレットアドレスは長い文字列で、全体を確認する人はほとんどいません。詐欺師は、あなたがよく使うアドレスと最初と最後の数文字が一致するアドレスを作り、そこからごく少額やゼロ額の送金を行って、あなたの取引履歴に紛れ込ませます。次の送金のときに、あなたが誤ってコピーするのを狙うのです。カーネギーメロン大学の研究者は、2022年7月から2024年6月までにイーサリアムとBNBスマートチェーンで、1700万人の被害者を狙った2億7000万件の攻撃を確認しており、少なくとも8380万ドルが失われました。
アドレスは取引履歴ではなくアドレス帳からコピーし、一文字ずつ照合しましょう。
「ピッグ・ブッチャリング」:投資詐欺とロマンス詐欺
始まりは多くの場合、間違い電話を装ったメッセージや、マッチングアプリでの出会い、SNSでの親しげな接触です。相手は何週間もかけて信頼を築いたあと、残高がどんどん増えていく投資プラットフォームを紹介します。いざ出金しようとすると、先に税金や手数料を払うよう求められ、その後相手は姿を消します。日本で警察庁が「SNS型投資・ロマンス詐欺」と呼ぶ手口と重なります。FBIは、2025年に最も大きな損失を生んだのが暗号資産投資詐欺だったとしています。
この名前(豚の屠殺)は、被害者を「太らせて」からすべてを奪う犯人たち自身の隠語に由来します。国際刑事警察機構(インターポール)は、この言葉が被害者に恥をかかせ、届け出をためらわせるとして、代わりに「ロマンス・ベイティング」と呼ぶよう呼びかけています。
偽のプレゼント企画となりすまし
「1 ETH送れば2 ETH返す」といった企画は、有名人や企業の名前と顔を無断で使い、ときにはAIで生成した動画まで用います。公的機関や、あなたが利用している銀行を名乗り、口座が凍結されたと告げる手口もあります。米連邦取引委員会(FTC)の原則は今も有効です。無料でお金を配ると約束したり、暗号資産での支払いを要求したりするのは詐欺師だけです。FBIは2025年、AIが関わる申告を2万2364件受理し、損失額は8億9300万ドルに上りました。
悪意のあるトークン承認(ドレイナー)
イーサリアムなどのネットワークでは、アプリがあなたのトークンを使う許可を求めます。ドレイナーのサイトは、エアドロップや新しいNFT、報酬などを装って同じ種類の許可を求め、ときには無制限の許可を得て、ウォレットを空にします。その要求は、ごく普通の操作に見えることがあります。
承認する内容をよく読み、信頼できるサイトにだけウォレットを接続しましょう。ブロックエクスプローラーなどにあるトークン承認のチェックツールで過去の承認を見直し、不要なものは取り消してください。取り消しには少額のネットワーク手数料がかかります。
ラグプル
ラグプル(敷物を引き抜く、の意)では、新しいトークンやNFTプロジェクトの運営者が購入者から資金を集めたあと、プロジェクトを放棄して資金を持ち去ります。自分たちが大量に持つトークンを売り払ったり、取引用のプールから資金を引き揚げたりするのが典型です。パンプ・アンド・ダンプでは、仕掛け人が自分たちの支配するトークンを宣伝であおって値をつり上げ、高値で売り抜けます。運営チームが匿名であること、過剰な宣伝、今すぐ買えという圧力は、いずれも危険信号です。
危険信号
| 目にするもの | たいていの意味 |
|---|---|
| 利益の保証や、異常に高い利回り | 利益を保証するのは詐欺師だけ |
| ネットで知り合った相手が暗号資産投資に誘う | ロマンス・ベイティング |
| 今すぐ行動するよう急かす、秘密にするよう求める | 確認されたくない相手がいる |
| シードフレーズ、パスワード、コードを求められる | 例外なく詐欺 |
| 出金の前に手数料や「税金」を求められる | 偽のプラットフォーム |
| 見覚えのないトークンやNFTにリンクが付いている | フィッシング目的のエアドロップ |
| 手数料と引き換えに失った資金を取り戻すという申し出 | 回復詐欺 |
身を守る習慣

リンク: お金を扱うサイトは自分で入力するかブックマークから開き、広告やメッセージ内のリンクは使わない。 秘密の情報: シードフレーズ、パスワード、ログイン用のコードは誰にも教えない。 ログイン: SMSではなく認証アプリ、パスキー、セキュリティキーを使う。 アドレス: アドレス帳から貼り付け、一文字ずつ確認する。 署名: 承認する内容を読み、不要になった承認は取り消す。 サービス事業者: 金融庁の登録業者一覧など、金融当局の情報で事前に確認する。 大きな送金: 実行する前に、信頼できる人に相談する。
最後の習慣は、見た目以上に重要です。FBIの「オペレーション・レベルアップ」が2025年に暗号資産投資詐欺の被害者3780人に連絡したところ、78%は自分がだまされていることに気づいていませんでした。
自分で鍵を管理している場合は、新しいアプリを試すための少額専用のウォレットを別に用意しましょう。一度の誤った承認が、大切な資産にまで及ばずに済みます。アカウントの安全対策については、カストディアル型と自己管理型のウォレットのガイドで詳しく説明しています。
被害に遭ったら:取るべき行動
急いで、しかし落ち着いて行動しましょう。次の五つのステップを順番に進めれば、被害を最小限に抑えられます。
- 止める (これ以上の支払いや手数料はなし)
- 守る (パスワード、ログイン、残りの資金)
- 記録する (取引ID、アドレス、やり取り)
- 届け出る (事業者、警察、公的窓口)
- 警戒する (有料の回復話は詐欺)
止める。 詐欺師が手数料や税金、罰金について何を言っても、それ以上お金を送らず、連絡を断ちましょう。
守る。 安全な端末から、情報が漏れたおそれのあるアカウントのパスワードを変更し、2段階認証を設定し直し、ほかのセッションをログアウトさせます。シードフレーズが漏れた場合や、ドレイナーの要求に署名してしまった場合は、残っているコインを新しいシードフレーズの新しいウォレットに移し、過去の承認を取り消しましょう。
記録する。 取引ID(ハッシュ)、送金先のアドレス、金額、日時を控え、やり取りやプロフィール、サイトのスクリーンショットを保存します。FBIは、取引の詳細が被害者から得られる最も重要な情報の一つだとしています。
届け出る。 まず、関係する取引所やウォレット事業者にすぐ連絡しましょう。事業者が早く知るほど、資金を凍結できる可能性が高まります。そのうえで、次の窓口に届け出てください。
- 日本では、最寄りの警察署か、都道府県警察のサイバー犯罪相談窓口に相談・届け出をします。警察相談専用電話は#9110、緊急時は110番です。契約や勧誘のトラブルは消費者ホットライン188でも相談できます。
- 米国では、損失がなくてもIC3(ic3.gov)に申告できます。英国のイングランド、ウェールズ、北アイルランドでは、2025年12月にAction Fraudから移行したReport Fraudが窓口で、スコットランドではPolice Scotland(101)に連絡します。
- そのほかの国や地域では、現地の警察や、詐欺・サイバー犯罪の公的な通報窓口に連絡しましょう。
警戒する。 被害者のもとには、偽の弁護士や調査員、ときにはFBI職員を名乗る人物から、手数料と引き換えにお金を取り戻すという連絡が再び来ることがよくあります。IC3は2025年、こうした回復詐欺に関する申告を1万516件受理しました。IC3が資金回復のために料金を求めることはなく、FBIは米国政府機関の公式な提携先となっている法律事務所は存在しないと説明しています。
だまされたのは、愚かだったからではありません。相手はプロの犯罪組織であり、あなたの届け出は捜査の助けになり、次の標的となる人を守ることにもつながります。
よくある質問
暗号資産の送金は取り消せますか?
取り消せません。ブロックチェーン上で承認された送金は確定します。ただ、盗まれた資金が捜査機関に協力する事業者に届いた場合、凍結できることがあります。だからこそ、早めの届け出が大切です。
盗まれた暗号資産を取り戻せると言う人がいます。お金を払うべきですか?
払ってはいけません。回復を理由に前払いの手数料を求めるのは、回復詐欺の典型です。本物の警察や公的機関が被害者に料金を求めることはなく、IC3が支払いを求めたり、有料の回収業者を紹介したりすることもありません。
ウォレットに突然現れたトークンを触っても大丈夫ですか?
見覚えのないトークンやNFTは、おとりだと考えましょう。名前に含まれるリンクを開いたり、よく知らないサイトで売却や「受け取り」を試みたりせず、そのまま放置してください。
ウェブサイトやアプリが本物かどうかは、どう見分ければよいですか?
自分でたどり着くことです。アドレスを入力するかブックマークを使い、アプリは提供元の公式サイトからダウンロードしましょう。ドメインのつづりを正確に確かめ、金融当局の登録業者一覧でその事業者を調べてください。ブラウザの鍵マークは通信が暗号化されていることを示すだけで、サイトが誠実であることを意味しません。
フィッシングのリンクをクリックしてしまったら?
何も入力していなければ、ページを閉じて端末を最新の状態に保ちましょう。パスワードやコードを入力した場合は、すぐに変更してセッションを確認してください。シードフレーズを入力した場合は、ウォレットが乗っ取られたものとみなし、すぐに新しいシードフレーズの新しいウォレットへ資金を移しましょう。
参考資料
- FBI Internet Crime Complaint Center: 2025 IC3 Annual Report
- FBI Internet Crime Complaint Center: Cryptocurrency
- FBI Internet Crime Complaint Center: Fictitious Law Firms Targeting Cryptocurrency Scam Victims Combine Multiple Exploitation Tactics While Offering to Recover Funds
- FBI Internet Crime Complaint Center: Threat Actors Spoofing the FBI IC3 Website for Possible Malicious Activity
- FBI Internet Crime Complaint Center: Cyber Criminals Impersonating Brands Using Search Engine Advertisement Services to Defraud Users
- 米連邦取引委員会(FTC): What To Know About Cryptocurrency and Scams
- 米商品先物取引委員会(CFTC): Digital Asset Frauds
- INTERPOL: INTERPOL urges end to 'Pig Butchering' term, cites harm to online victims
- USENIX Security Symposium 2025: Blockchain Address Poisoning
- ethereum.org: How to revoke smart contract access to your crypto funds
- Trezor: Common scams and phishing affecting Trezor users
- CISA: Mobile Communications Best Practice Guidance
- City of London Police: Report Fraud service goes live with full public launch in January 2026
- 警察庁: 暗号資産に関するトラブルにご注意ください!
- 金融庁: 無登録業者との取引は要注意!!


